水の幻視 ~ナンバー278の幻視

益体もない「思索」と「おこない」の点描的記録

やすらひの日

ネットサーフィン*1をしていて「集団ストーカー」という言葉に出会った。
ご存じない方はGoogleなどで一度検索されてみるといい。恐るべき数のサイトが引っかかってくるだろう。*2

曰く・・・・


私は集団からストーキングされている。
隣家の奥さんと取り巻きの主婦たちはその手先の代表格だ。
いつも窓からこちらをうかがっている。
何人かで集まって私の噂をしていることも多い。近所に悪い風評を立てようとしているのだ。私がその傍を通りかかると、不自然に会話が途切れたりするのですぐわかる。
街を歩いていると、いつも決まって私と視線を合わせてからこそこそと携帯電話をかける人を見かける。私を観察しているに違いない。隣の主婦が所属する宗教団体か絡んでいるらしい。前に勧誘を断ったことかあるので、それが原因だろうか。最近は、ウインドウを黒塗りにした不審な車が家のそばに止まっているのをよく見かける。彼らは、無言電話やワン切り電話をよくかけてくる。
集団で私を精神的に追い込もうとしているのだ。



──と、ここまでなら、まあ、「あなたの思い過ごしじゃないの」とは思っても、強力な異常性は感じない。あるいはそんなことも起こりうるかな、という想像の範囲内である。しかし、集団ストーカーの被害に遭っていると主張する人は、ここに留まらずさらにエスカレートする。


曰く・・・・


最近彼らは電磁波を送ってくるようになった。
おそらく極秘で開発された超科学的システムを使っているのだろう。夜「眠らせないぞ」「お前は失敗する」「バーカ」「死ね」といった罵詈雑言を特殊な電磁波を使って直接私の脳に送り込んでくる。あるサイトではこれをスカラー波という名前で呼んでいた。
いずれにしても、隣で寝ている配偶者には聴こえないらしいので、私の脳だけをターゲットにしているのは間違いない。こんなすごい装置を持っているのだから、相当に巨大な組織なのだろう。科学力からして、宗教団体だけではなく大国のスパイ機関が絡んでいるに違いない。
その装置は、声を送るだけではなく、私の考えを読み取ることもできるらしい。私が考えたことをオウム返しに送り返してきたり、「ははは、バカなこと考えてるね」とか、何かをしようと思った瞬間に「そんなことしても無駄だよ」と先回りしてコメントを送ってきたりもする。
さらには、家の壁になんらかのエネルギーを当ててきしむような音やラップ音を鳴らしたりといった嫌がらせをする。私の体に直接電撃を送って痙攣させたり失禁させたりすることもある。そのせいで最近私は睡眠不足で肉体的にも精神的にも追い詰められている。
彼らは先週から、テレビやラジオを使って私の中傷をするようになった。ワイドショーのキャスターやコメンターまでもが、なぜか私の考えや行動を知っていて「バカですねぇ」「死んだほうがいいよ」といった論評を加える。ほのめかしのレベルの中傷は様々な番組で四六時中続いている。
警察に相談したが、全く理解してもらえなかった。
おそらく警察もグルなのだ。


ここまでを読まれてどう思われるだろうか。
これは私の全くの創作だ。しかし、幾つか「集団ストーカー被害申告系サイト」を見れば、わが創作が概ね「間違っていない」ことがご理解いただけるだろう。実際には、もっと生々しく、もっとコマゴマと切実にしたためられた、感情を刺激する文面に出会えるはずである。


多少知識のある人なら読むとすぐ気づくことだと思うが、上記の「創作」は統合失調症(精神分裂病)の患者が訴える愁訴にかなり近い。陽性反応──いわゆる被害妄想、関係妄想、思考吹入などを体験談として語るとこのようになる。
素人があまり断定的なことを言ってはいけないと自戒した上で、それでもなお私は「集団ストーカー被害申告系サイト」の管理者の多くがこの病に罹患しているのだろうと考える。オッカムの剃刀を使うまでもなかろう。


統合失調症は人口100人に対して1人の割合で発症するきわめて「罹患濃度の高い」精神病である。この数字を知って私は目が点になった。若いころから様々な書物を通じて症状がどんなものであるかは知っていたが、統計数値についてはかつてどこかで聴いたか読んだかしたことがあったとしても、すっかり忘れてしまっていた。


このかなり高い罹患率が我々にあまり意識されないのはいったいなぜだろうか。
統合失調症にかかっている多くの人は、外見からはわからないというのがその真相ではあるまいか。かつて私は「精神分裂病」という病名に対して、ところかまわず了解不可能な言動を繰り返す異様な病態といったイメージを持っていた。しかし、それは明らかに誤りだった。根強い妄想にとり憑かれて苦しんでいても、それをあまり外には出さずに耐えている人も多いという。周りからはちょっと変わった人ぐらいに思われつつ日々を過ごしているのだ。当然そういう人たちは、我々には「見え」ない。
だから、巷を見回して受ける印象と、この大きな罹患率の間には乖離かあるのだ。


ところが、かつては「ブロードキャストな発言」を封じられていたそういう人に、インターネットは絶好の「媒体」を提供したのだ。私が偉そうにネットでブロードキャストしているのと同じように。



統合失調症は病識がないのが特徴である。自分が罹患していると認めることができない。
それは、なんとなくわかるような気がする。以前このBlogで幻聴体験について書いたが、意識がはっきりしているときに、もしあんなリアルな人の声が聞こえてきたら、私だってそれを幻聴だとは思わないだろう。また、金縛りは非常に強い情動体験(主に恐怖感)を伴い、苦しいものだが、その情動が四六時中続くとしたら心底疲れ果ててしまうだろう。悪夢が覚醒後の精神生活にまで尾を引くことはままある。とすれば白昼、自分では覚醒していると思っている状態のときに悪夢を見たならばどうだろうか。
統合失調症とは、まさに覚醒時に悪夢を見ているような状態ではないかと想像してみたりもするのである。




(この項つづく)

*1:ネットサーフィンは死語かも。私は「検索サーフィン」という言葉を提案しようかと思っている。

*2:google 05/10/13の時点で57,100件)「集スト」という短縮形のキーワードでも545件引っかかる。